INTERVIEW

松本 花奈
16歳、同世代の仲間たちとつくった長編映画作品『真夏の夢』が「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」に正式出品。翌年には、映画『脱脱脱脱17』で同映画祭の審査員特別賞・観客賞を受賞。以来、映画だけでなく、ミュージックビデオやTVドラマなど、活躍の幅を広げる、現在23歳の映画監督、松本花奈さん。今年12月31日に、パルコが出資・配給を行う『明け方の若者たち』の公開を控える彼女に、映画との出会いについて、監督という仕事について、そして才能について、話を聞いた。
映画との出会い。
小・中学生のときは、演じる側をやっていたのですが、そのときに出会った監督で俳優の森岡龍さんがきっかけで、映画に興味を持ちました。森岡さんが大学の卒業制作でつくった作品を「ぴあフィルムフェスティバル」に出品していて、それを観に行ったときに「映画って面白い!」と強く感じました。その後、高校ではダンス部に入ったのですが、かなり厳しい部活で、先輩もめっちゃ怖かったりして(笑)。それで学校の外に楽しみがほしいなと思っていたときに、中学時代に観た映画のことを思い出しました。「KIKIFILM」という高校生の映像制作団体に入り、そこで「映画をつくる」ということに初めて取り組みました。最初は、カメラマンや美術、録音などにも興味があったのですが、つくっていくうちに「ストーリーを考えている」時間が自分にとって一番楽しいと気づき、脚本や監督をやりたいと思うようになりました。

映画監督の面白さ、難しさ、必要なもの。
面白さも難しさも、一人ではなく、みんなでやっているからこそ生まれるものかなと思います。面白いと感じるのは、一人では想像できなかったことが、みんなとつくっていく中で見えてきた瞬間。逆に難しいと感じるのは、伝える言葉です。例えば「キュートな世界観にしたい」と言ったときに、「キュート」の捉え方が人によって違ったりするので、より具体的な言葉を使ったり、あるいは絵を見せたりなど、伝え方に気を配る必要があると感じています。
それに加えて、正義とされていることも、違う側面から見たら悪だったりすることってありますよね。その逆もしかりで。「絶対にこう」と決めつけるんじゃなくて、何事も「もしかしたら」って柔軟に考える想像力を持っていたいと、常に心がけています。結果だけを見るのではなく、背景や過程を踏まえたうえで物事を考えられる人でいたいなと。


映画『明け方の若者たち』について。
原作を読んだときに、明大前や下北沢、高円寺など、親しみのある具体名が出てきて、最初はそこに興味を惹かれました。劇中でキーとなる場所のひとつに、明大前の「くじら公園」があるんですが、「あ、ここ高校の通学路だ」とか(笑)。読み進めるにつれて、ほぼ自分と同世代の主人公に共感する部分がたくさんあり、自然と映像が頭に浮かんできました。
映画やドラマ、ミュージックビデオなど、さまざまな作品をやらせてもらうようになって、映画なら、映画でしか表現できない部分に着目したいと考えるようになりました。それぞれのメディアに特性がありますが、映画の場合は、「音」が他の媒体よりも重要視されるポイントかと思います。『明け方の若者たち』では、明け方に主人公たちが街を歩くシーンで、鳥の声や、バイク、始発の電車の音にこだわりました。

好きなもの=才能。
好きなものがあること。「好きなものイコール才能」だと思います。幅広くたくさんあるというものではなくて、狭く、深く、持つべきもの。「好きなもの=才能」という観点で『明け方の若者たち』を振り返ると、主人公の“僕”は、才能のある“彼女”を羨望していたように感じます。“彼女”には夢があって、こういう自分になりたいっていう目標に真っ直ぐ向かっている。一方で“僕”は、学生から社会人になっていく中で、なりたい自分の姿を模索し続けている。好きなものを持っている“彼女”と、持っていない“僕”。その差があるからこそ、恋愛感情以上の尊敬や憧れがないまぜになって、“僕”は”彼女”に、よりのめり込んでいったのかなって。そんなふうに考えていました。

自分の才能を見つけるために。
「自分が何を好きなのか」を見つける作業が必要なんじゃないかな、と。見つけるために、一人で考える時間をたっぷりつくること。今、人とつながりやすくなって、他の人の考えていることが情報として入ってきやすくなったがゆえに、自分の考えがブレやすくもなっている感覚があります。「みんながいいと言ってるから、きっといいものなんだろう」と考えてしまう傾向が強いのかな。本当に自分もそれをよいと思っているのか、立ち止まって考えてみるべきで。逆に、みんなはよいとは言っていないけど、自分だけ「なんかいいな」と感じたときには、ちゃんとその感性を信じてほしい。人と違うこと、孤独であることを恐れないことが大事なんだと思います。

松本 花奈/ Hana Matsumoto
1998年生まれ、大阪府出身。慶應義塾大学総合政策学部在学中。初長編監督作品 映画『真夏の夢』が史上最年少の16歳でゆうばり国際ファンタスティック映画祭に正式出品。翌年、同映画祭にて映画『脱脱脱脱17』が審査員特別賞・観客賞を受賞。 第29回東京国際映画祭フェスティバルナビゲーターに就任。 2018年4月にTBS『情熱大陸』に出演する。山戸結希監督が企画・プロデュースを手掛け、総勢15名の新進映画監督が集結したオムニバス映画『21世紀の女の子』にも参加し、映画、TV、MV、広告、写真と幅広いジャンルで活動をしている。2021年12月31日には、パルコが出資・配給を行う『明け方の若者たち』がシネクイント・ホワイトシネクイントで公開予定。
http://akegata-movie.com/
Photo_Masumi Ishida
Styling_Miri Wada
Hair & Make-up_Yuka Toyama(mod’s hair)