INTERVIEW

アイナ・ジ・エンド
2024

アイナ・ジ・エンドさん

“楽器を持たないパンクバンド”BiSHは、デビュー以降、彼女たちが繰り出す全身全霊のパフォーマンスと豊かな音楽性で多くのファンを魅了してきた。大型ロックフェス、紅白歌合戦への出演、集大成として東京ドーム公演を叶え、2023年6月、惜しまれながらも約8年間の活動に幕を閉じた。BiSHオリジナルメンバーであり、ほぼ全ての楽曲の振り付けを担当してきたアイナ・ジ・エンドは、グループ解散後もその勢いが収まることなく、俳優、アーティストとしての活動を続けている。ミュージカルや映画の主演に相次いで抜擢され、ソロでのリリースやライブにも全力で挑む毎日。いま、最も熱い視線が注がれる表現者であるアイナ・ジ・エンドが語る、自身の現在地、渋谷PARCOで開催される写真展への意気込み。

BiSH解散を経て、ワンマンライブで見た景色。

BiSHのメンバーとして8年間活動をしてきて、それが自分の人生の全てでした。去年の6月29日に解散しましたが、私はBiSHに命拾いされたと言っても過言じゃないぐらいです。自分を人間にしてもらえたし、居場所をもらえた。今もまだ、感謝の気持ちでいっぱいです。解散することは2019年から決まっていたので、心の準備をする時間が十分にあったし、少しずつ腹をくくっていけたのかもしれません。途中、コロナ禍でライブができない時期もあったんですけど、お客さんに会えない時間があるからこそ、本当にお客さんが大切だということにも気づけました。デビューした頃に遡れば黒歴史みたいな辛い出来事もありました。スクール水着でダイブしたり、全身タイツで全力疾走したり「何でもいいから売れてやる!」精神の時代もあったので、思い返すと恥ずかしいんですけど、それも含めて愛おしい記憶になっています。みんなで最後までやり遂げられたのは、6人全員がBiSHに対して感謝があったからだと思うんです。

BiSH解散を経て、ワンマンライブで見た景色。
Photo by sotobayashi kenta

今年の1月、アイナ・ジ・エンドとして渋谷でワンマン・ライブを行いました。ソロでステージに立つのはかなり久しぶりだったので、正直すごくドキドキしていました。やったことのない走り込みをしてしまうぐらい、気合も入っていましたね。当日いざ幕が上がると、お客さんがとてもあたたかくて「そうだ、ワンマンライブは自分のことを知ってくれている方が来る場所だった」と思い出したんです。何を怖がっていたんだろうって。それに気づいてから、思い切り楽しむことができましたし、お客さんのおかげで自分が自分らしくいられる時間でした。

BiSH解散を経て、ワンマンライブで見た景色。
Photo by sotobayashi kenta

今回初めてバックダンサーのオーディションを自発的にやりたいと提案して、妹のREIKAと一緒に審査員をしたんです。昨年、REIKAと一緒に参加したアメリカのダンスレッスンが鮮烈だったので、その経験にも後押しされたと思います。最終メンバーが決まってからは、毎週のようにリハーサルを重ねました。10代のメンバーもたくさんいて、2000人の前で踊る経験なんて初めての子ばかりだったので、舞台袖から緊張していることが伝わってきました。だけど、初めてだから持っている無敵の感覚というか、彼女たちの怖いもの知らずの勢いは羨ましくなりましたね。同じステージに立っているとビンビンと波動で伝わってきて、自分も刺激を受けてもう一つギアが上がった気がします。途中からは「負けていられない」という気持ちになれたので、お互いで高め合えたんじゃないかな。すごく新鮮な経験になりました。

岩井俊二監督の世界に身を預けた、初めての主演映画。

岩井俊二監督の世界に身を預けた、初めての主演映画。

岩井俊二監督はどこまでも自由な方で、一緒にいるだけで、こちらも子供みたいな感覚になれるので不思議です。実際、監督も「東京のお父さんだよ」と言ってくれます(笑)。作曲もお芝居も、全てにおいて放し飼いされている犬みたいな気持ちで、最後までのびのびとキリエを演じさせていただきました。それはきっと岩井監督の、人を引き出す力が素晴らしいからだと思うんですけど、一切カッコつけずに居れるというか。かっこつけなければつけないほどカッコよくなる。正直なところ、「キリエのうた」の撮影をしていた2022年はBiSH解散1年前で、ツアーが同時に2本走っていたり、夏にはジャニス・ジョプリンという大役を演じるミュージカルもあったので、もう毎日がぐちゃぐちゃだったんです。微熱も続いて体調もギリギリだし、何度か限界を迎えました。だけど、キリエの現場に行くと、朝までしんどかったのにスッと楽になるんですよ。不思議なもので、守っていただいているような感覚さえあり、マイナスイオンをもらって帰れるような現場でした。初主演の映画が岩井監督の作品じゃなかったら、たぶんやり遂げられなかったと思います。

岩井俊二監督の世界に身を預けた、初めての主演映画。

体力と精神の限界を迎えた経験から気づいたことがあるんです。私は「しょうがない」という言葉が好きであり、嫌いです。例えば、朝起きて、人間だからどうしてもうまくいかない、どうしても気持ちが乗らない日ってありますよね。そういう日に限って、大事な会議があって笑顔でいなきゃいけなかったりする。結局けっこう毎日大事なことばかりで、無理をし続けなくちゃいけなくなる。そうすると心が死んじゃうじゃないですか。昔は無理してずっと笑顔でいたのでどんどん心が消費されて、歌詞も書けない、振り付けも浮かばない、ご飯もおいしくない、部屋は散らかる。表現者だからとかじゃなく、これは生き物として良くないぞと思ったので、やめることにしたんです。「今日の自分はしんどいんだ、しょうがない。あとで謝ろう」。そうやって思えるようになってからは、歌ものびのび歌えて、息も深く吸えたんです。なので、表現を続けるためにも、日々無理をしない。「しょうがない」と思うようにしてます。

周りにいる人がスペシャル。そう思い続けられる自分もスペシャル。

周りにいる人がスペシャル。そう思い続けられる自分もスペシャル。

これは自慢なんですけど、自分は人のいいところを見つけるのが得意です。出会う人に対して「この人のここが、めっちゃ素敵!」と思えるポイントを誰よりも早く見つけられる自信があります。だから周りにいるスタッフさんや、仲良くしてくれる友人のことを最高だなって思い続けられる。人と人なので、ときに傷ついたり傷つけ合っちゃうこともあると思います。でもそれはしょうがないし、それ以上に「この人にはこういう長所がある、自分とこういう部分が通じ合っている」とすぐ切り替えられます。いつも周りのみんなが最高だと思っていて、そう思える自分もスペシャルだし、集まってくれるみんなもスペシャルだなって感じています。
私にとってスペシャルな仲間の1人に、10代からの親友で、カメラマンの女の子がいます。マホって言うんですけど、彼女が将来写真を撮る仕事をしたいと言っていた時代に、私も歌を歌う人になりたいと話していたような同志なんです。そんなマホが10年以上撮り続けてくれていた私の写真を、3月に渋谷PARCOで写真展として発表できることになりました。渋谷PARCOでは、憧れのDOMMUNEにパフォーマンスで出演させていただいたり、「SCHOOL OF WACK」というはちゃめちゃな展示をしたり、特別な思い出がたくさんあります。プライベートでも買い物や展示の鑑賞でたまに来ていて、常に刺激的だし、訪れるたびに自分の感性が活性化される大好きな場所です。今回「展示をするなら渋谷PARCOでやりたいです!」と社長に直談判して叶ったので、とても楽しみです。最近はありがたいことに素敵な服を着せていただいて、メイクもしていただく撮影が多いんですが、今回の展示ではおしゃれな写真ではなく、もっとずっと拙い写真がたくさん並ぶような空間にはなるんじゃないかな。なんせ二人とも夢が叶う前から知り合いなので、緊張感のない写真も多くて、私の変顔や、顔がむくんでいるひどい写真とかもあります。それも全て包み隠さず、2人の時の流れが見えたらいいのかなと思ってます。2人の人間が成長していく過程を、楽しんでいけたら嬉しいです。

周りにいる人がスペシャル。そう思い続けられる自分もスペシャル。

アイナ・ジ・エンド

大阪府出身。2015年“楽器を持たないパンクバンド”「BiSH」のオリジナルメンバーとして始動。16年メジャーデビュー。ヴォーカリストだけでなく、ほぼ全曲の振付も担当。21年全曲作詞作曲の1st ソロアルバム「THE END」をリリース。23年6月、惜しまれながらもBiSHを解散、現在はソロとして活動中。22年には日本初上演となるブロードウェイミュージカル「ジャニス」で主演のジャニス・ジョプリン役を務める。23年10月、岩井俊二監督の映画「キリエのうた」で映画初主演を飾り、劇中の詞と曲も書き下ろす。Kyrie名義でアルバム『DEBUT』もリリース。24年3月からはワンマンツアー“Grow The Sunset”を開催予定。3月29日〜PARCO MUSEUM TOKYO (渋谷PARCO4F)にて、写真家・興梠真穂が撮影した自身の10年間が収録された写真集の発売を記念し、展覧会「アイナ・ジ・エンド solo exhibition ‐幻友‐」の開催が控えている。

公式HP: https://ainatheend.jp/

Photo: Kaori Akita
Styling: Ai Suganuma(TRON)
Hair&Make-up: KATO(TRON)
Text: Satoko Muroga(RCKT / Rocket Company*)

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