INTERVIEW

小島秀夫
2025

小島秀夫

「メタルギア」や「DEATH STRANDING」など、つねに革新的な発想と表現で世界中のファンを魅了してきたゲームクリエイター、小島秀夫。2025年6月にリリースされた最新作「DEATH STRANDING 2: On the Beach」では、美しく構築された映像世界と音楽の演出が融合し、プレイヤー自身が物語を“生きている”かのような圧倒的没入感を生み出し、ふたたび大きな注目を集めている。
「才能とは何か」という問いに、小島氏からは「好奇心、観察力、努力」と、端的かつ本質的な答えが返ってきた。インタビューが進むにつれ、その3つの要素が彼の創作にどれほど深く根ざしているかが明らかになっていく。未来を引き寄せる、小島秀夫の“ものづくり”の哲学とは何か。

まだ何もないところからスタートしたゲーム作り。

僕がこの業界に入った頃は、まだ世の中にゲームの概念が出来上がってなかったんです。「これが次のゲームです」という提案をして、それが新しいゲームのスタイルとして成立したような時代。今の若い人たちは子どもの頃からゲームに触れているから、規模とか、プレー時間とかゲーム仕様とか、こうでなければいけない、みたいな感覚が無意識にあるじゃないですか。映画で例えると、せいぜい尺は2時間。3時間を超えると長い、みたいな。僕の場合はその前提がなかったので、とても自由に作ってこれたんです。色々なゲームを作りましたが、気づけば世界中に規範化し似通ったゲームが氾濫するようになって、ある程度年齢も重ねた僕が何か新しく作るのであれば、そこにある感情やプレイが、まだ存在してないゲームを作りたいと思うようになりました。「メタルギア」(1987)で取り入れたステルス(敵に見つからないように潜入し、ミッションを遂行するゲーム)」も今は当たり前のスタイルですが当時は新鮮でしたし、「DEATH STRANDING」(2019、通称・デススト)でいうと、それが“つないでいく=配達”というゲーム性でした。ゲーム性だけじゃなく、絵づくりとかストーリー展開、俳優の布陣とか、新しいテクノロジーを使っているとか。そういうものも含めての斬新さというか。僕の企画書にはいつも「業界初」って書いてあります(笑)。

まだ何もないところからスタートしたゲーム作り。

30年ほど勤めた会社を辞めて、独立してすぐは、4畳半くらいの貸し事務所からスタートでした。オフィスの家具もパソコンも、何も揃っていないところでゲームの構想を練り始めて。キャラクターやシーンの設定は、アイディアをその都度スマートフォンにメモしていました。少しずつスタッフが増えて今の事務所を借りることができたのが2016年の春。会議室もキッチンもまだ工事が出来ていない空のフロアを目一杯使って、スタッフと一緒に「デススト」のカメラワークのテスト撮影をしていた時が懐かしいです。武器を傘で見立てて、ヘルメットを被って……手作り感満載のテスト映像を、「クリフ」という役を演じてもらったマッツ・ミケルセンに見せて、演技の参考にしてもらったんです(笑)。今でも、僕がゲームの脚本を書いて役を決める前段階の会議では、変わらずスタッフたちとその辺にある道具や部屋を使ってテスト撮影(https://x.com/Kojima_Hideo/status/1199541295233921024)をしています。

まだ何もないところからスタートしたゲーム作り。

少し先の未来を引き寄せるためにできること。

ゲーム作りにおいて大切にしていることは、いかに未来を読むか、ということ。そして、自分の思い描く未来を引き寄せられるか、ということです。未来を変えるんじゃなくて、自分が未来を作るみたいな。(開発にかかる)5年先を読まないといけないので、とても難しいです。その間に、時代も社会背景も変わる。僕たちが「つながり」をテーマにデスストを完成させた時、発売して3ヶ月後にパンデミックが起こったんです。本当にゲームのような分断と孤立が世界に訪れてしまって、全く予想していなかったので驚きました。世の中の動きを見て脚本やディテールを修正していくこともありますし、他社のゲームクリエイターが何を考えているかを予想しながら動くこともあります。

少し先の未来を引き寄せるためにできること。

時間とお金があったら月面でも火星にでも行きたいですけど、そう行けないじゃないですか。未来を引き寄せるヒントは、日常生活にもたくさん潜んでいるんですよね。例えば山手線に乗ったとして、ずっと右側で車窓の風景を見ているんじゃなくて、左側に乗ったら違う風景ですし、車両を乗り替えたらまた違う風景が見えてくる。毎朝ランニングをしているとしたら、今日は反対方向に走ってみるとか。特に日本は、季節が変わると花や草木も変わっていく。小さなことが刺激になりますね。そんな風に、僕はけっこうたくさんのものを観察しています。観察して、感じて、そこからどんなアイディアが生まれるか。ゲームのキャラクター作りをする上で、知っている人の性格とか仕草を取り入れることもありますよ。映画や小説の人物をいきなり取り入れようとするとリアリテイがなくなるので、知り合いの会話の癖とか、好きな食べ物とかを取り入れて肉付けしたりします。

少し先の未来を引き寄せるためにできること。

先人たちが作ってきた素晴らしい映画に勇気をもらう。

大阪から上京してすぐの頃は、映画を観によく渋谷へ行っていました。基本的に人が多い場所は苦手なんですけど、渋谷に行けばタワレコとHMVでレコードを漁れるし、渋谷PARCOに行けば洋書を買えるロゴスがあって、ミニシアターのシネマライズやシネクイントもあった。「スペース・パート3」というカルチャースペースの映画上映にもよく足を運んでいました。なぜだかよく覚えているのは、僕が当時好きだった俳優の吉野公佳さんが出演しているハリウッド作品(BAJA RUN/デス・ドライブ)を観るべく「スペース・パート3」に行ったら、観客が僕1人だったんです。やっぱり今日はやめておこうかな……と後ろを振り向いたら、真剣に映写機を準備しているスタッフさんと目が合ってしまいまして(笑)。そのまま1人で最後まで観続けた思い出があります。

先人たちが作ってきた素晴らしい映画に勇気をもらう。

今でも、壁にぶつかった時は映画に助けられています。技術的に不可能なことにぶつかったり、時間が足りなくなったり。うまくいかなくて落ち込みそうな時は、すごく苦労して作っている映画作品のメイキングを見て元気を出しています(笑)。ジェームス・キャメロン監督の『アビス』のメイキングなんか最高でした。水を張ったタンクを深海に見立てて、たくさんの俳優たちが何度も潜って限界まで演技を続けて、監督が「素晴らしい!」って叫ぶ……。こんな命をかけた状況に比べたら、自分はまだまだ甘いな、と(笑)。映画のメイキング映像は素晴らしいですよ。先人たちはそこまでお金をかけずに、猛烈にすごいものを作ってきたので。戦時下で映画なんか撮れるような状況じゃないはずなのに、小津安二郎監督は素晴らしい作品を残していますし。映画が誕生して120年くらい経ちますよね。今では映画で出来ることはほぼやり尽くされている気がします。テクノロジーが進化して、昔なら撮れなかったアングルも撮れるし、CGで多くのことが実現出来るようになりました。昔の監督達からすればそこは羨ましいですよね。

努力を努力と感じないくらい、夢中になれるものに出会えるか。

才能とは何か?と聞かれたら「好奇心、観察力、努力」の3つだと答えます。絵や小説を書いているアーティストが、ある日急に売れたとしても、作っている時はわからないし、周りの誰も言えない。たいてい、結果論なんですよ。でもやっぱり、何かを成し遂げた人って、見えないところで絶対頑張っている。天才も1割いると思いますが、本当に結果を出す人は、どこかで時間を費やして頑張っている人だと思います。「努力」ってなんか口に出して言いたくないじゃないですか。そもそも彼らは努力だと思ってないんです。昔は僕も毎日20時間くらい働いていましたけど、楽しくてしょうがなかったので、努力だと感じたことはありませんでした。そういうものに出会えるかどうですよね。

努力を努力と感じないくらい、夢中になれるものに出会えるか。

今は1人でものを作れる時代です。自分で作って、ネットでリリースしたらブレイクするチャンスが転がっています。幼稚園からCGに触れている子だっていますからね。映画もそう。自費でショートムービーを撮ってネットで公開したら、ハリウッドがお金を出して、ワールドワイドの映画監督になれるかもしれない。料理だって、無料のレシピがたくさんあるから、料理教室に通わなくても作っている動画をYouTubeで公開することもできる。モノマネは悪いことじゃないので、最初はモノマネからでいいですよ。僕だってそうでしたから。たくさん映画や演劇を観て、音楽を聴いて、それを自分の中で消化して。そこから、ものづくりが始まると思います。ただ、1人でものを作り続けるのって孤独ですし、けっこう辛いんですよ。責任もあるし。意見を交換したり、悩みを共有し合えるような、共通の志を持つ仲間がいると心強いですよ。

小島秀夫

1963年生まれ、東京都出身。ゲームクリエイター。ゲーム業界きっての映画好き、小説好きとしても知られる。初めて手がけた「メタルギア」(87)はステルスゲームと呼ばれるジャンルを開拓し、映画的な演出と革新的デザインで世界的なヒットを生む。2015年末に独立し、コジマプロダクションを設立。「DEATH STRANDING」(19)では、分断された世界や人をつないでいくゲーム性がコロナ禍の世界と重なり、全世界においてユーザー数2000万人を突破した。20年、これまでのゲームや映像メディアへの貢献を讃えられBAFTAフェローシップ賞を受賞。25年6月には最新作『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』が発売し、早くも世界中のファンたちの話題をさらっている。
https://www.kojimaproductions.jp/ja

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